アニメ感想記事第二弾。
第二弾にして最高傑作の登場だ。
メインキャストが、水瀬いのりさん、花澤香菜さん、井口裕香さん、早見沙織さんという豪華な布陣で制作されたアニメ。「宇宙よりも遠い場所」
アニメのヒューマンドラマ系でこれ以上の作品を望むことなどできようか。
良作や傑作ではない。正真正銘の名作である。
「宇宙よりも遠い場所」概要
放送期間 2018年1月~3月
原作 よりもい
監督 いしずかあつこ
脚本 花田十輝
アニメーション制作 マッドハウス
Cast
玉木 マリ 水瀬いのり
小淵沢 報瀬 花澤香菜
三宅 日向 井口裕香
白石 結月 早見沙織
高橋 めぐみ 金元寿子
玉木 リン 本渡楓
小淵沢 貴子 茅野愛衣
藤堂 吟 能登麻美子
前川 かなえ 日笠陽子
鮫島 弓子 Lynn
財前 敏夫 松岡禎丞
高校に入ったら何かしようと思って何もしないまま高校二年生なった玉木マリ。元観測隊員で、南極で消息を絶った母の見た景色を見ようと南極を目指す小淵沢報瀬。高校を退学し、コンビニでアルバイトをする三宅日向。幼いころから子役として活動する白石結月。
個性も抱えている過去も思いも違う四人が偶然出会い、民間観測隊の同行者として南極へと向かう。
特徴
超豪華なキャスト陣
メインキャストを見ても豪華だが、細部に至るまで妥協を許さないキャスティングだ。
これに関しては何も言わなくてもいいだろう。
史上最高の脚本
この作品を語る上で史上最高と言って差し支えのない脚本を外すことはできないだろう。
一切の無駄のないプロット
1クール13話で物語はコンパクトにまとめられており、話の分配は以下の様にほぼ均等な三分割になっている。
1話~5話 日本編
6話~9話 道中編
10話~13話 南極編
日本編で各登場人物を登場させ、南極に向かう道中に4人の関係性の変化と、登場人物個々の「物語」を提示する。満を持してたどり着いた南極で、一人につき一話を割いてそれぞれの物語を完結させてゆく。
登場人物の物語への参加、各話の主題と連携は驚くほど自然で滑らかな連続性をもって物語が進んでいく。
「ギャグ」と「ドラマ」の絶妙なバランス
各話に一つはドラマが用意されているが、下手をすれば物語全体が重厚になりすぎてしまう。
しかし、この作品を観て「重い」と感じたものはいないだろう。かといって軽すぎる作品でもないのだ。
その要因は「ギャグ」と「ドラマ」の絶妙なバランスにある。
そのバランス感覚の良さは作品の冒頭二分間にも表れている。
視聴者を一気に物語の世界に引き込む水瀬さんのナレーションで感動的な世界観を生み出し、キマリと母親のやり取りでバランスを取った後、キマリのメモにある「青春する」の言葉にキマリは涙する。
秀逸なギャグとドラマが美しく同居した完璧なオープニングと言える。
作品が万人に受け要られる条件である「ギャグ」という要素と、何度見ても色褪せない輝きを作品に与える「ドラマ」という要素。
二つのバランスが兎に角最高であることもこの脚本を輝させる理由の一つだろう。
作品を代表する名言
名作映画には必ずその作品を象徴するような名言が含まれている。
「君の瞳に乾杯」 -カサブランカ
「I’ll be back」 -ターミネーター
「ボンド、ジェームズ・ボンドです」 -007シリーズ
「フォースと共にあらんことを」 -スター・ウォーズ
「つまんねぇこと聞くなよ!」 -じょしらく
そのセリフを一言聞けば誰もがその映画を連想するような名台詞を有しているかも脚本としての評価に含まれる。
この「宇宙よりも遠い場所」にも印象的なセリフが多くある。
「ざまあみろ」
「悪意に悪意で向き合うな」
「本気で聞いてる」
「本気で答えてる」
「あめんぼ赤いな愛ゆえに」
などが本作では有名どころだろう。
アニメでしか表現できない「設定」
実写向きの設定とアニメ向きの設定というものがある。
CGや特殊メイクの技術が進化した今日において、両者をはっきりと線引きするのは難しくなってきているが、今作はアニメでしか表現できない設定を巧みにいかしていると言えるだろう。
主要登場人物が女子高生
実写でこの物語を映像化しようとすると16,17歳そこらの技術と才能に恵まれた役者を集めなければならないが、それは至難の業だろう。
しかし、アニメの特徴であるが、登場人物と役者の年齢・性別は一致させる必要はない。
今回のメインキャストは最年少の水瀬いのりさんでも制作時23歳、花澤香菜さん井口裕香さんは30歳ほどと、キャラクターの設定からは離れた年齢だ。しかし、作品を観る限り違和感は感じない。そればかりか、役者としてのキャリア、人生経験などから生み出される演技は高校生には出せない魅力を放っていると言える。
アニメであれば、重要な子供の役を、確かな技術と豊かな感性を持った大人の役者が演じることができる。
南極観測隊に同行
実写で描く最大のハードルは舞台の設定が南極と観測船の船内となっていることだろう。
南極の風景や、南極に向かう道中の船から見える海の様子はCGで再現するのは困難だ。CGであることが視聴者にばれてしまっては一気に興ざめしてしまう。CGと分からないほどの映像を作り出すことは今の技術では不可能だろう。かといって、実際に現地でロケを行うのも不可能だ。
アニメであれば、現地でロケをする必要はなく、すべてアニメーターの手によって世界を生み出すことができる。実写では不可能な舞台設定であってもアニメでは可能になる。
それもアニメで物語を制作する魅力と言えるだろう。
総評
点数
- 脚本 30点/30点
- 演技 26点/30点
- 音楽 10点/15点
- 作画 13点/15点
- 背景 7点/10点
合計 76点
脚本
脚本に関しては上で述べた通り、本当に素晴らしい。いったいどうやって批判すればいいのか分からない。
30点は出さないと思っていたが、これ以上のものを期待することなどできないだろう。それほど完全無欠な脚本だ。
演技
要所要所で入るナレーションは声優ならではの説得力に満ちたものだった。
最終話、キマリと報瀬の会話。
「本気で聞いてる」
「本気で答えてる」
短いセリフで、声を張っているわけでもないが印象に残る場面であった。
水瀬さんは、何気ないような一言に重みを乗せることのできる素晴らしい役者であることを示すシーンであった。
音楽
偉大な脚本と素晴らしい演技に比べて音楽は至って普通である。
しかし、ストリングスの音などはおそらくシンセサイザーなどを用いたモデリング音源ではなく実際に演奏したものを録音しているようだ。冒頭の20秒間のナレーションを彩る音楽として申し分ない。
個人的にはレゾネーターギターを使用しスライドギターで演奏した劇伴に、「変わったことするな~」という感想を抱いた。
作画
観測隊の出発式での報瀬のスピーチのシーン、観測隊員は一切言葉を発しないが、かつての仲間の娘の言葉を受け止める様子がその表情から伝わってくる。
一話のラストシーン、「知りたい?」とキマリに聞きながら微笑む報瀬と、それを見て興奮するキマリの表情も逸品だ。
近年の作品の中でも特に表情が印象的な作品だった。
背景
この物語の重要な場面の舞台となる南極の厳しくも美しい景色を見事に描き切っている。
日本の日常にあふれる風景でさえ、写実的でありながら情感豊かに描き、物語の演出をより効果的にしている。
まとめ
アニメファンであれば、いや、アニメファンでなくても一度は見てみるべき作品だ。女子高生が南極を目指すという一見特殊な物語の様に見えるが、今とは違う、どこかに行きたいという誰もが持つ思いを描いた普遍的な作品でもある。
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