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【吹奏楽部】「上手くなりたい人」と「部活を頑張りたい人」と ~吹奏楽部のジレンマ~

音楽
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「上手くなりたい上手くなりたい上手くなりたい」

泣きながら宇治大橋を走って渡ることも厭わぬ吹奏楽部員も少なからずいるだろう。

ならば、即刻吹奏楽部は退部するのが得策だ。

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部員?楽団員?

吹奏楽部で楽器を演奏している者は、部員なのか?楽団員なのか?

2018年時点、全日本吹奏楽連盟に所属している団体は、14,134団体。
そのうち社会人、大学の楽団は除き、大半を占める中学、高校の吹奏楽部においてほとんどは「部員」として楽器を演奏していると言って差し支えないだろう。
少なくとも僕の学校では「部員」であった。

学校の吹奏楽部で楽器を演奏している限り、あなたは「楽器奏者」でもなく、「楽団員」でもなく、「部員」として扱われる。

「部員」であれば、「部活動」を実施することを余儀なくされる。

当たり前であるが、もし、「楽器が上手くなりたい」のであれば、その事実は障害以外の何物でもない。

吹奏楽部員全員が効率よく上達するには?

最優先の目標を「吹奏楽部としていい演奏をする」と設定して普段の練習について考える。
この目標設定は、多くの吹奏楽部が目指す「コンクール金賞」と同義と言っても差し支えないだろう。

また、使用する楽器云々については触れない。
練習の内容だけを論ずることとする。

プロの指導者に指導を受ける

ここで言うところの指導者とは各部員の楽器演奏を指導する人で、指揮者の様に全体の指導をする指導者ではない。
楽器の鳴らし方から練習メニュー、音楽についてのあらゆることをプロの奏者に徹底的に叩き込んでもらう。
ここで重要なのが、「プロ奏者」に指導を受けるということだ。プロ奏者はその道で食っている。音楽に対する覚悟や技術、積み重ねてきたものがOBや部の先輩とは違うのだ。

レッスン料の例

  • レッスン料の相場 60分4000円~6000円
  • レッスン頻度:週1回~月1回

(例)1コマ=60分 5000円

  • 週1コマ 一年間:約40コマ~50コマ 年間レッスン料:約20万円~25万円
  • 月2コマ 一年間:約20コマ~24コマ 年間レッスン料:約10万円~12万円
  • 月1コマ 一年間:約10コマ~12コマ 年間レッスン料:約5万円~6万円

1コマ60分5000円とは、プライベートレッスンでは実に標準的な価格だ。

週1コマ、年間50コマレッスンを受けるのはほぼ音大受験を目指すクラスであると思っていいので、吹奏楽で問題なく演奏できるようにするには年間約5万円から15万円ほどかかるといってもいいだろう。

部の全体練習は週2回

部の全体練習とは、原則全員参加の練習のことだ。

こちらの全体練習は週末にまとめて土日のどちらか、またはその両方の週1~2回で事足りる。
勿論、本番前はもう少し時間を割くべきではあると思うが、平素は週2回で十分だろう。

全体練習のスケジュール例を挙げるとすれば…

  • 9時集合
  • 各自1時間程度のウォーミングアップ
  • 2時間程度のパート、セクションでの打ち合わせ
  • 昼食
  • 13時から16時まで合奏
  • 解散

平日等の個人練習は好きな場所で

平日の放課後にまで、全員参加で居残って楽器を練習する必要はない。

各人、自宅の自室など自分の楽器の音以外何も音が聞こえない部屋で、自分の生み出す音と真摯に向き合うべきなのだ。

学校で静謐な環境を各人に割り当てるのは普通の学校であれば難しいだろう。
僕のかつて在籍していた高校では、授業で使う普通の大きさの教室に、チューバ3本とコントラバス2台、ひどいときはユーフォニアムが2本押し込まれ「練習」していた。
仮に、それが「練習」と呼べればの話なのだが。
会話さえままならない音が飽和した教室で自分の音を聞き取り、音程のずれや細かな音色を調整できる人がいるとすれば、とんでもなく耳がいいか、もう練習しなくてもいい人だ。
そんな環境で練習しておいて、「ピッチが悪い」「音が汚い」「上達しない」…

至極当然だ。

自分の音以外一切の音がない環境でこそ、楽器を「練習」することができる。

学校の備品のコントラバスをメンテナンスのために一旦自宅に持ち帰ったとき、初めて静謐な環境で演奏した。思いもしなかった、ショッキングな音を出していた。

 

無論、フルートやオーボエ、コントラバス(この楽器はグレーゾーンだが…)は無理をすれば家で練習することはできるが、金管勢や打楽器においては自宅での練習は困難を極めるだろう。
チューバなんぞが自分の家で練習を始めた日には、僕は近くのビジネスホテルの最安値の部屋を探すことになるだろう。

そういった楽器の場合は学校という環境が上手く使えるなら利用するに越したことはない。
自宅を利用できる人が自宅を利用すれば、その人の練習は格段に効率化されるし、学校でしか練習できない人の練習環境も改善されることとなる。
各個人が好きな場所で練習することは、誰にとっても得しかない。

初心者の場合

「初心者の場合どうすればいいのだ」

初心者だからこそ、適切な環境で無様な己の雑音に向き合うべきである。

よく先輩がつきっきりで後輩指導に当たるような様子も吹奏楽では見られるが、先輩といえど、所詮後輩より1年長く部に在籍しているだけで、先輩も後輩も五十歩百歩だ。
それに、初心者であってもじっくりと自分の奏法や音と向き合う時間を確保するべきだ。

まとめ

吹奏楽部が演奏の質を向上させるには以下のことが必要である。

  • 各人の楽器演奏を指導するプロの奏者とそのレッスン料、年間約5万円~15万円
  • 適切な環境での十分な量の個人練習
  • 週二回の合奏またはセクション単位の練習
  • 本番前には上記の週二回の練習に加えた直前練習

吹奏楽部とは?

単純に楽器が上手くなりたい、楽団としていい演奏がしたいのなら、毎日強制的に劣悪な環境での練習を強いることは無意味どころか害悪でさえある。

しかしながら、上記スケジュールでの活動は中学、高校の吹奏楽部でほとんどとられていないだろう。

吹奏楽部の活動意義は「上達」にあるわけではないからだ。

文化庁の提言する吹奏楽部の活動意義

中学、高校の吹奏楽部はあくまでも部活動であり、プロ奏者の養成機関ではない。

では、吹奏楽部の活動意義とは何なのか?

平成30年3月、文部科学省は「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」を発表した。
それに続く形で同年12月、文化庁より「文化部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」が発表された。

それによれば、文化部の活動意義としてあげられるものは

  • 人間関係の構築を図ること
  • 多様な学びの場を用意すること
  • 生徒の自己肯定感を高めること

などがある。

また、学校側にとっても部活動の様子の観察を通じて、生徒の状況理解という意義も掲げられている。

部活動は学校教育の一環であり、吹奏楽部も然りだ。吹奏楽部は決して演奏技術の向上のために組織されたものではない。

ほとんどの吹奏楽部員にとって多大な練習時間を費やした音楽は無駄である。
無駄だからこそ、長い人生のたかだか2,3年がいつまでも輝いている。

僕の愛読書でもある、津原泰水著「ブラバン」(新潮文庫)を読んでもらえれば理解できるだろう。

実際、僕が吹奏楽部に費やした時間はことごとく無駄なものであったが、この上なく美しい景色と共に脳裏に張り付いている。
部活動とは本来そういうものなのだ。

多種多様な部員

もし仮に、文化庁の提言する部活動の意義、つまりは学校教育の一環としての活動以上のものを吹奏楽部において見出してしまった僕の様な救いようのない阿呆で不幸な人間は、どうすればいいのか?

冒頭に述べたとおりである。今すぐ吹奏楽部を立ち去るのが得策だ。

様々な種類の「やる気」

吹奏楽部の活動に対する姿勢を大まかに分類すると以下の様なタイプに分かれる。

  1. 「部活動」のやる気のある人
  2. 「楽器演奏」のやる気のある人
  3.  1.と2.その両方にやる気のある人
  4.  特にやる気のない人
  5.  女子と仲良くなりたい男子

【4.】と【5.】は今回は無視しておくとして、問題は【1.】と【2.】の対立だ。

 

【1.】は部活動で、人間関係の構築や自己肯定感を得たい。要は青春したいのである。

【2.】は部活動で、演奏技術を向上させ、音楽の高みに登りたい。要はプロになりたいのである。

 

どちらも一見同じ、「やる気に満ちた部員」と言えるがその実、目指しているものは全く違う。
目指しているものが違えば無論、各々がとる手段も違う。

青春したいものは、毎日放課後に全員集まって練習し、全員でコンクールを闘い結果を残そうとする。3年間の部活動がすべてで、3年間で完結する。

プロになりたいものは、孤独に楽器と向き合い、今後の音楽人生の礎となる技術、センスを身に着けようとする。彼、彼女らには3年間は単なるスタート前の準備運動でしかない。

「やる気」と「やる気」の対立

「やる気」の度合いが大きければ大きいほど、互いの溝は深まる。
ここに、二つの「やる気」が同じ組織内に存在することによるジレンマが生まれる。
本来であれば、互いの理解を深め、尊重し、同組織内で共存することが理想である。

しかし、中学生は勿論のこと、高校生は未熟で頑固で潔癖だ。

己の信じた正義は絶対の正義であり、それ以外の正義は受け付けられないのだ。
対立が起きてしまうのは仕方がない。

だが、両者とも対立しているほど暇ではない。どちらかが引かねばなるまい。

この場合引くべきは、楽器の上達を目指すものだ。

先に述べたように部活動は養成機関でも何でもない。学校教育の一環として組織されたものなのだ。

先ほどスルーした【3.】の青春もしたいし、楽器の上達もしたいという部員。

まずその部員が考えるべきなのは、本当にそのどちらも望むのか?ということだろう。
熟考の末、どちらも望むのなら仕方がない。挑戦する価値はあると思うのだが、部活動に属する限り、どちらかは諦めざるを得ない可能性の方が高いということは肝に銘じておかねばなるまい。

文句を言う人、去る人

「果たして本当に去る必要があるのか?」という疑問を呈するのは至極真っ当だ。

勿論、先ほど述べた「青春もしたいし楽器の上達もしたい部員」の様に部で悪戦苦闘する手もあるが、その選択はあまりにリスキーに思え、リアリストだった僕は部を去った。

中には、理解できない言動をとる対立相手に文句を垂れるだけ垂れて部に居座るものもいるやもしれない。
はっきり言おう。そういった連中が最もたちが悪い。

現状に満足できないなら、取る選択は二つだけだ。

  1. その場から立ち去り、満足のできる地へ移り住む
  2. その場を改革し、満足のできる地へと変えてゆく

文句を言うのは構わないが、そこから建設的な議論に発展しないようでは話にならない。それどころか、組織の雰囲気を険悪にするだけである。

この点から見ても、吹奏楽部で活動するうちにプロを目指したくなったものは、他に活動拠点を移すのが得策だと思う。
吹奏楽部はプロ養成機関になるべきではない。

最後に

吹奏楽部の立ち位置は実に難しい。野球部や陸上部などの運動部はプロ養成機関としての機能も兼ね備えているが、吹奏楽部は、たとえ「強豪校」と呼ばれる学校でもプロ養成機関としての機能を備えているわけではない。

吹奏楽自体が発展途上の音楽であり、完成されていないオーケストレーションは楽器の魅力を最大まで発揮したものであるとは言い難い。
また、歴史の浅さと未発達故に独自の風習が根付いていることも多く、中には楽譜の購入を嫌い、他校の楽譜をコピーし自分たちの楽譜とし、さらにコピーを重ねていくという集団万引き行為まで常識と化している。
吹奏楽部自体の在り方も、もう一度問い直されるべきなのだろう。

 

中学生、高校生は本当に救いようのない阿呆で未熟で無知で頑固で、それ故本当に真っすぐなのだ。

何人の中高生がこの文章を読んでいるのかは分からないが、諸君が部活動で美しい思い出を得られることを願ってやまない。
高校生時分、僕は「吹奏楽部は僕の様にやる気のありすぎる人にとっては、居心地が悪いところなのだ。何たる理不尽な事か」と憤慨したものだが、その認識が誤っていた。
他の部員たちも同じくらいやる気はあったのだ。
ただ、向いている方向が違っていただけなのだ。

高校生ともなれば、道をたがえるのは自然な事だ。高2にもなれば文理選択をするし、進路を考える。あるものはスポーツ推薦で進学し、国公立に進むか私立に進むか就職するか選択する。今回論じた吹奏楽部のジレンマも選択の結果である。
あなたが選択した「やる気」は必ずしも誰かの「やる気」と同じではないかもしれない。

高校生活は3年間しかないが、いざというときは腰を落ち着け、熟考せねばならぬ。
吹奏楽部は美しい景色を見せてくれる。
若気の至りと短気でそれを塗りつぶしてはいけない。

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