「一番好きな映画は何か?」
答えることはできない。
「一番好きな‘ドキュメンタリー映画’は?」
即答できる。
ある映画に人生を変えられた。
「ゲット・ラウド」
It might get loud ~ゲット・ラウド~
概要
Led Zeppelinのジミー・ペイジ、U2のジ・エッジ、ホワイトストライプスのジャック・ホワイト。各時代を象徴する三人のギタリストがギターと音楽と人生について語る。
ファーストインプレッション
あるとき、父がこの映画の宣伝をラジオで聞いたらしく、夜の梅田に出かけ、「テアトル梅田」という小さな映画館でこの作品を観た。
当時小学生だった僕は夜の梅田なんて物騒な大人の街に繰り出したことなんてなかったし、映画館と言えば広い空間に大きなスクリーンで鑑賞するシネコンしか知らなかった。
何もかもが鮮烈だったこともあってか、その日のことは深く記憶に刻まれている。
映画の冒頭、知らないジョニーデップ似の白人が板にコーラを空き瓶を使ってギターの弦を張り、ピックアップを取り付け、ボトルネックでそのへんてこな楽器を演奏する。
一通り演奏したら、たばこをふかして言う。
「ギターを買う必要はない」
荒々しく歪んだスライドギターの音をバックに、それぞれがハードケースを手に歩く映像が流れ、ギターについて話す音声がかぶせられる。
ギターキッズが道を踏み外すには十分魅力的な冒頭で、以来、楽器を持ち運ぶときはハードケースで持ち運ぶようになった。
ギター好き以外にも伝わる「ギター映画」
この映画が、三人の素晴らしいギタリストの人生、音楽の歴史をなぞり、使っている楽器や機材のセッティングを解説するだけの映画だったら、映画館で鑑賞して以降、DVDを買って見返したりはしなかっただろう。
それに、ジミー・ペイジの名前だけ知っていた兄がこの映画を観て感動し、後にロンドンのO2アリーナにU2のライブを兄弟で見に行くようなこともなかっただろう。
三人のギタリストの「人生の映画」
この映画を名作たらしめているのは、この映画が「ギターを描いた作品」ではなく、「ギターを通して人生を描いた作品」であるという点だ。
ギターを手にした当時の社会の状況、ミュージシャンとして活動していく中での葛藤…あくまでも、監督が見つめていたのは三人の人生だった。
音楽×映画
「ギターがいかに素晴らしいか、音楽がいかに美しいか」
それを言葉で表現しては安っぽい。
「人生がどれほど苦痛にあふれているか、どれほど幸せなものか」
それを音楽とカメラを通して表現することで、芸術作品としての美が生まれる。
音楽で生計を立てているものでなくとも、だれにでも通じるテーマを音楽と映画、両方のアプローチで描く本作品は普遍的なメッセージを持つ。
この上なく魅力的な音楽とカメラワークは必見だ。
特に冒頭のギターを次々と映すシーンはこれまで見たどんなギターを映した映像よりも美しい。
まとめ
- 「ギターのドキュメンタリー映画」ではなく、「人生のドキュメンタリー映画」
- 個性の違う三人のギタリストが言葉で、楽器で語り合う
- 作品の持つ普遍的なメッセージは誰にでも届き、人生の様々なタイミングで見返したくなる
音楽家を取り上げたドキュメンタリー映画は数多く存在するが、多くは資料映像やインタビューの羅列で物語も何もない。
しかし、本作品はこの上なくドラマチックな三人のギタリストの人生を描き、しっかりと物語を持っている。
最後に三人がソファーに座り、ザ・バンドの名曲「ザ・ウェイト」とアコギで弾きながら歌う。
曲と共に映画が終わると、何かをしたくなる。
「人生が映画を作る。そして、ときとして映画は人生を作る。」
誰かが言っていたがよく言ったものだ。
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