安済知佳さんが出演するらしいということで劇場に足を運んだ。
最近劇場で見た映画で引き込まれた映画は何だったか?
ほとんどの場合、映画はスクリーンの向こう側で展開していて、劇場の中の空気は日常のままなのである。
登場人物の一切が、自分にとっては結局のところ他人事でしかない。
しかし、本作は客席にまで作品の持つ空気が伝わってくる稀有な作品であった。
概要
原作: さと
監督・脚本: 佐藤卓哉
アニメーション制作: ティアスタジオ
Cast
森谷美鈴: 伊藤美来
村上遥: 宮本侑芽
小林由香利: 安済知佳
三分間だけ時間を止めることができる森谷。日常的にその能力を使い、面倒ごとから逃げ、美少女のスカートをめくってパンツを見たりしていた。
ある日、なぜかその能力が効かない少女、村上が現れる。
秘密を知られた森谷の、村上に振り回される日々が始まる。
特徴~圧倒的な繊細さ~
無音
劇場で鑑賞してまず驚いたのは、作品の醸し出す繊細な雰囲気だった。
呼吸することすらためらわれる。
息をしただけで作品を壊してしまうかのようだった。
主人公が時間を止める三分間は、この世界の主人公以外のすべてが静止する。
聞こえてくるのは主人公の足音や吐息だけだ。
その際、BGMは一切挿入されない。
大音響と圧倒的な映像で観客を圧倒することは容易いのだが、無音で、決して派手とは言えない作画でここまで圧倒されたのは初めてであった。
百合という題材
日本のアニメーションにおいて「百合」という題材は実に興味深いものと言える。
女性同士の恋愛を描いたものが「百合」と呼ばれる作品群であるが、
近年の大ヒット作「やがて君になる」や、佐藤卓哉監督が以前に制作した劇場版OVA「あさがおと加瀬さん」などを見ると分かるように、
ひとえに百合作品を「女性同士の恋愛を描いたもの」と捉えるのは的を射ていない。
百合の醍醐味は、「友情と恋愛の狭間で揺れ動く心理」である。
日本のアニメーション特有の淡い色彩、写実的な作画を追い求めずあくまでも絵の魅力を引き出す作風は、CGアニメーションにはない繊細さを持つ。
本作では、極限まで削られたBGMと淡い色彩の作画で、百合の持つ魅力を最大まで引き出している。
まとめ
「フラグタイム」、本作は無音の破壊力を存分に発揮して繊細な空気を生み出し、百合の持つ不安定な心理描いた一つの頂点と言える作品である。
革新的なものは何もない。突飛な発想も独創性もない。
しかし、ここまで引き込まれる作品にはそうそう出会えるものではない。
必ず劇場で、その空気を感じるべきである。
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