吹奏楽部に新入部員が入る季節。
吹奏楽部という管楽器の天下で弦楽器のアウトロー、コントラバスを手にすることとなった部員も多くいるだろう。
コントラバスを指導してくれる人がいるのなら安心だが、なかなか吹奏楽部に弦楽器の知識を持った人材はいない。
「どうしたものか?」と頭を抱えながらネットで調べてこの記事に辿り着いた方も多いだろう。
今回の記事では、吹奏楽部でコントラバスを学ぶために必要不可欠な教則本についてまとめた。
必要な能力
合奏の中でコントラバスがその役割を発揮するためにはいくつか身につけなければならない能力や知識がある。
吹奏楽部の他の楽器に共通の要素もあるが、中には弦楽器特有の要素もあるので一つずづ見てみよう。
読譜力
- ヘ音記号に慣れる
- 指板上の音を覚える
- フレーズごとのポジションの使い方を覚える
一般に浸透している音部記号はト音記号だが、多くのコントラバスの楽譜はヘ音記号で表記される。まずはこのヘ音記号に慣れなければならない。
その上で、コントラバスの指板のどこにその音が位置しているのかを記憶していく。
まずは楽譜を理解し、頭の中でどの様に演奏するのか想像できなければならない。
演奏技術
- 各ポジションの指の形を覚える
- ポジション移動を覚える
- 弦間の移動を覚える
弾く音も押さえる場所もわかっているのに実際に正しく弾けないことは多い。
頭の中の音を実際に鳴らすための能力が必要である。
身体能力
- 特殊な筋肉の訓練
普段しない運動をしたら翌日筋肉痛になった経験のある方も多いだろう。
「こんなところに筋肉があったのか…」と驚くこともしばしばある。
楽器演奏においては普段の生活で使用しない筋肉を使用するため、その筋肉を鍛える必要がある。
しかし、間違えてはいけないのが、これが腕立て伏せやスクワットのような筋トレではなく、ピアノのハノンのように演奏によく使う動作を反復して行うことで、その動作に慣れる訓練を意味する。
音楽的感性
- 音感を鍛える
- フレーズの取り方を学ぶ
コントラバスはギターなどとは違い、指板を半音階に分割するフレットが存在しない。
全て自分の耳で調整していかなければならない。
そのためには、頭の中で正しい音程をイメージできなくてはならない。
また、より深い表現をするためには曲の持つ雰囲気を感じ取る音楽的な感性も必要である。
楽器に関する知識
- 手入れの方法、管理方法を知る
自身の楽器を最適な状態に保つためにはしっかりとした知識が必要である。
その知識がないと、楽器に異変が起きても気が付くことができず、楽器の状態が更に悪化する。
また、無理な状態で練習を続けると怪我をする。
コントラバスは吹奏楽部において唯一の弦楽器である。
コントラバスを手にした部員が気がつかなければまず誰にも気がつかれないまま放置される。
おすすめコントラバス教本、エチュード
コントラバスの教本はいくつかのタイプに分かれる。
- 世界的なスタンダードとなった本
- (1)を解説した本
- 現代で活躍する奏者が執筆した本
おすすめの教則本のタイプ
仮に、指導者に師事するわけではなく、自分たちだけで練習をしなければいけないと仮定した場合、複数の本を持っておくことをおすすめする。
使い方としては、
- メインの本として(⒈)のタイプの本
- 副読本として(⒊)のタイプの本
といった形だ。
(⒈)のタイプの、古典とも言える教則本を中心に据えて練習を積むべきである。
ただ、指導者の元で使用することが前提として書かれている部分が多く、楽器の管理方法や用語の解説は疎かにされがちである。
そこで現在活躍している先生方が執筆した本で知識を補いながら進めるのが良いと思われる。
現代奏法の父
コントラバス教育の第一人者として真っ先に名前が上がるのが、チェコのコントラバス奏者、フランツ・シマンドルである。
彼はプラハ音楽院で学んだ後、ウィーンで奏者、教育者として活躍した。
現代の「人差し指、中指、小指の三本で演奏する」というスタイルはこの頃に確立され、彼の著書は未だに世界中のコントラバス奏法のスタンダードとなっている。
(小指を使わずに薬指で弾いてしまうイタリア式も存在する。が、多くの日本人は手の大きさが足りない為、ほとんど用いられていない。)
おすすめの教則本〜古典編〜
以下からは具体的に教則本の紹介に入る。
まずは、練習のメインに据える古典の教本から。
シマンドル
日本において、コントラバスを弾いている人間でこの教則本を使ったことのない人間は存在しない。
(ロカビリーのベーシストは知らぬが…)
世界的にもスタンダードと言える教則本で、コントラバスの教材の選択肢としてはほぼこれ一択。
- オーケストラで使用される音域の全ポジションを練習可能
- 各ポジションの音の楽譜上の全ての表記を掲載
- 各ポジションのみを用いたエチュードを収録
- 既出のポジションとの連結の練習及びエチュードを収録
この教本は、Book1とBook2に分かれているが、Book2はソロのための教本なので基本的に無視して構わない。
♯(シャープ)や♭(フラット)、ダブルシャープ、ダブルフラット、ナチュラルなどさまざまな表記を織り交ぜた表記の仕方がされており、自然と指板上の音と譜面の音を一致させることができる。
読譜力の向上も十二分に期待できる。
HIYAMA ノート
上記のシマンドル教本に、日本のコントラバス教育の第一人者である、故・檜山薫先生が独自の練習メニューを書き加えた補強版シマンドルと言える教則本。
書き加えられているのは
- 跳躍の練習
- 運指記号抜きのエチュード
- 長調、短調の音階
- 長調、短調の分散和音
など。
第7ポジションまでの練習の内容のみが収録されており、シマンドル原本の後半に収録されている様々なテクニックのエチュードなどは割愛されている。
しかしながら、吹奏楽部での演奏であれば十分対応できるように思う。
エチュード(練習曲集)
ある程度までシマンドルを進めれば、エチュードの併用が推奨されている。
シマンドル教本にもエチュードは収録されているが、扱う音やリズムなどをかなり制限して作曲されているため、より音楽的なエチュードを学ぶことが必要不可欠である。
シマンドル 30の練習曲
様々な調や拍子、様式で描かれた練習曲集。
低い音域をしっかりと発音する練習ができるため、合奏で求められるテクニックを習得することができる。
しっかり弾こうとすると意外と難しい。
ボッテジーニ メソッド・フォー・ダブルベース パート1
コントラバスのパガニーニとの呼び声高いイタリアのコントラバス奏者、ジョヴァンニ・ボッテジーニの練習曲集。
シマンドルに比べて知名度はかなり低いが、イタリアらしい歌心が面白い。
臨時記号を多く含むため、音感のトレーニングに最適。
おすすめの副読本
上記の教則本に加えて、楽器の知識を得るための副読本を何冊か紹介する。
入門者のためのコントラバス教本
吹奏楽界のコントラバス奏者の第一人者、鷲見精一氏の、吹奏楽部員のための教本。
楽器の状態のチェックから始まり、アクセサリー類の解説、奏法の解説など、豊富な写真で初心者に優しい。
また、迷いがちな弓順の決め方もレクチャーしてくれている。
指導者向けのチェックリストも付属しており、専門知識はないが指導しなくてはならない方にもおすすめできる。
パワーアップ吹奏楽! コントラバス
同じく鷲見精一氏の著作。
小さめのサイズのため、常に持ち歩ける。
学校の休み時間などに読むと、意外とモチベーションの上昇や知識の習得につながる。
まとめ
- 吹奏楽部でコントラバスを楽しむためには教則本の存在が不可欠
- 教則本はメインのシマンドルと副読本を一冊持っていると良い
- ある程度学習が進むとエチュードを併用する
ピアノと同じく、コントラバスにもスタンダードとなっている教則本が存在する。
独自の奏法でコントラバスを弾くのは非常に難しいし、無駄に遠回りだ。
長い歴史の中で優れた奏者や教育者が培ってきた知恵が教則本には詰まっている。
合奏が、吹奏楽人生が楽しいものになることを祈ります。
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