最近、よく漫画を読む。
今の時代、大量に「作品」が某小説投稿サイトから生み出され、コミカライズされて、アニメ化されて製作費を回収するためにパッケージ化して物販をして捨てられていく。
それらの「作品」のうち、何割の「作品」が五年後にもまだ人々に覚えられているのだろうか?
「Change! 和歌のお嬢様、ラップをはじめました。」
今回取り上げるこの漫画は、そういった「使い捨て」の「作品」とは明らかに異なるものであった。
事の顛末をお聞かせしよう。途中退席は認めない。
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強力な冒頭のラップバトル
ページを開くまで、そこまで期待はしていなかった。
昨今のラノベにありがちなタイトルと女子高生に何か変わったことをやらせておけばいいという安易な設定の量産型の漫画だろう、と予想していた。
しかし、冒頭の10数ページでその予想は間違いである事が証明された。
つかみの重要性
とある映画の脚本指南書にこんなことが書いてあった。
映画が始まって最初の10分で、観客がポップコーンに手を伸ばしたり、椅子を座り直したりし始めたら脚本家の敗北です。
魅力的な物語は、その物語独自の世界を必ず持っている。
「ホラー映画を見た後、トイレに行けなくなる」という場面を想像して欲しい。
「ホラー映画を見る」という行為は、たかがフィクションの出来事に触れるだけの行為である。
にもかかわらず、背後の暗闇に何かが潜んでいるような気がしてくる。
慣れ親しんだ我が家が急に恐怖の現場になる。
優れた物語に触れる時、我々は外側からその世界を眺めるわけではない。
物語の世界の内側で、登場人物と同じ目線で出来事を「体験」する。
優れた作品は、我々を日常の世界から物語の世界へと引きづりこむだけの力を持っている。
しばしば、鑑賞し終わってもしばらくその世界から帰ってくる事ができないこともあろう。
「ホラー映画を見てトイレに行けなくなる」という状態は、ホラー映画の世界に入り込み、その世界を体験することで、日常に映画の世界が侵食してきている状態なのだと個人的には考えている。
冒頭のつかみ
日常と非日常には壁がある。
物語の冒頭にはその壁を通過するだけのエネルギーを持たせなければならない。
この作品では、最初の10数ページで読者を物語の世界に誘うことに見事に成功している。
和歌の名家に生まれた可憐なお嬢様の繊細な美を緻密に描きつつ、アングラなラッパーやクラブの世界、大音響のDJや歓声を迫力満点に描き切る、実に魅力的な絵である。
さらに、カフェで主人公と友人の会話シーンから始まり、ラップバトルのシーンへと場面が移り、主人公のラップが始まる直前でひと月前に時間が遡る。
目まぐるしく移ろう場面に読者は否応なく引き込まれてしまう。
見事に日常と非日常を隔てる壁を通過させることに成功している。
1〜4巻まで読破、そしてラップの世界へ
そこからは一瞬であった。
物語の世界に引き込まれてからは4巻までを一気に読み進めてしまった。
ラップ未経験者にこそオススメ!
この漫画は、ラップを普段から嗜んでいる方ももちろん楽しめると思うが、ラップに触れた事のない人にこそ読んで欲しい漫画である。
物語では、主人公が何の知識もなくラップの世界に迷い込んでしまう。
ならば、むしろ同じく何の知識もない読者が主人公と同じくラップの世界に迷い込んだ方がより楽しめるのではないだろうか?
物語の中で知識がなければ理解できないものがしばしば登場するが、のちにしっかりと回収してくれる。
決して読者を置いてけぼりにしない配慮がなされているが、それでいて単なる知識の解説を無理やり挿入するという印象ではなく、あくまでも、物語上必要な会話の中で解説がなされる。
これもまた憎い演出だ。
実際に、「あの時の言葉はこう韻を踏んでいて、こういう意味があった」と解説されれば、また読み返したくなってしまう。
一周目と二周目では見えるものが全く違ってくるというのもこの作品が優れた物語である証明となっている。
実際にバトルを聞いてみた
不思議なもので、全く興味のなかったジャンルに興味を持たせてしまう特殊な力をもったものが存在する。
好みではないと思っていた家系ラーメンにどハマりしてしまうようなラーメン然り、ソロキャンプに出かけたくなってしまう某漫画然り。
本作品も全く興味のなかったラップの世界への扉を開いてくれた。
ラップに関しては別記事で書きたいと思う
(動画は本作に監修として参加されている晋平太さんの動画)
まとめ
「Change! 和歌のお嬢様、ラップをはじめました。」
しばらく物語の世界から帰ってこられないような漫画は久しぶりに読んだ。
素晴らしい漫画のアニメ化は望まない。
表現者が漫画という形態を選んで漫画にしたものをどうしてアニメにする必要があろうか?
アニメになどできない、漫画ですでに完成された、美しく上品な和歌の世界と重厚で野蛮なラップの世界の共演を是非とも楽しんで頂きたい。
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