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【感想】キャロル&チューズデイ (第一クール)

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普段音楽を勉強している僕だが、映画、アニメ、ドラマなどの映像作品をそれなりに見る。そこで、忘備録も兼ねて、アニメや映画の感想を述べようと思う。

今回は初回として、2019年制作の「キャロル&チューズデイ」の第一クールを取り上げようと思う。

最初にこの作品を取り上げるのには特に理由はない。最近見たアニメだからである。

 

 

~評価方法~
評価の項目は以下の通り

  • 脚本 30点
  • 演技 30点
  • 音楽 15点
  • 作画 15点
  • 背景 10点

合計100点

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「キャロル&チューズデイ」概要

原作 BONES・渡辺信一郎

総監督 渡辺信一郎

アニメーション制作 ボンズ

音楽制作 フライングドック

音楽 Mocky

 

Cast

キャロル 島袋美由利

チューズデイ 市ノ瀬加那

ガス 大塚明夫

ロディ 入野自由

アンジェラ 上坂すみれ

 

田舎の家を飛び出して都会へとやってきたチューズデイと、貧しいながらもバイトで食いつなぎながら都会で暮らすキャロルが出会い、デュオとして音楽活動を始める。
ある日忍び込んだホールで演奏していたところを、音響エンジニアのロディが撮影しネットに投稿。その動画をみた元ドラマーのガスが二人のマネージャーをかって出る。
四人はデビューを目指して様々なことに挑戦していく…

特徴

「アニメ音楽」の革命

このアニメの最大の特徴は無論「音楽」である。

劇中の挿入曲にしても劇伴にしてもOP・ED曲にしても、一聴するだけで違いに気づく。

完全に洋楽のミキシングをしている。

簡単に言えば、ヴォーカル以外の楽器にも焦点が当てられており、あくまでも音楽を奏でるすべての楽器とヴォーカルは対等な関係にある。

と言われてもなかなか分かりにくいと思うので、例として、水瀬いのりさん、早見沙織さん両者の曲を取り上げてみてみよう。

(例~1~)水瀬いのり 「Ready Steady Go」

水瀬さんの声だけ聞ければいいやというようなミキシングに聞こえて仕方ない。
サポートミュージシャンの力量もあるのかもしれないが、バックバンドがどのような音楽を奏でているのかよくわからないのだ。ドラムの存在感が薄いし、ベースに至っては完全に消滅している。

まさしく典型的な邦楽のミキシングといえる。エンジニアがものすごくテキトーに仕事をした気がしてならない。
まあ、バックバンドがガンガン鳴らしてしまうと、ヴォーカルを完全に食ってしまうのかもしれない…

(断っておくが、水瀬さんのアンチではない。部屋にポスターを飾るほど「役者水瀬いのり」のファンなだけである。)

(例~2~ 早見沙織 「Let me hear」)

(最初の例とは曲調が違うのは勘弁してもらいたい。)
出だしから芸が細かい。伝統的なソウルといった感じの曲調に合わせて、LPレコードに針を落とした時の様なノイズからはじまる。
数小節間はギターも本体のボリュームを絞って演奏し、バックコーラスもくすんだような音で、真ん中の狭いところに音を集めている。
そうして注意を真ん中に集中させておいたところで、左側からギター、右側からオルガンの音を入れる。予想外の方向から音を加え空間をぐっと広げてリスナーの意表を突いている。
さらに、本体のボリュームを上げたギターとオルガンの音で、くすんだ色がカラフルに色づいたところで早見さんのヴォーカルが入る。

先ほどの水瀬さんの曲と違い、早見さんのヴォーカルはもちろん、バックコーラス、ギター、ドラム、ベースなどそれぞれの楽器がしっかりと存在感を放ちつつ、きちんと整理されている。

(ベースがかなりいい仕事をしていると思うのだが、クレジットされていないのはどういうことなのか…。)

 

これらのことについては語りだすと一つ記事ができてしまいそうなのでここまでにしておいて、より詳しく洋楽の特徴について知りたいというもの好きの方はこちらへ。

楽器の作画

楽器というのは何とも描きにくい。
完全に確立された造形に、自然が生み出した美しい杢、工業的な細かいパーツなど、美しい楽器を描くために様々な要素が存在するだけでなく、それを演奏する人の手の動き、ひじの使い方、指先のタッチまで描く必要がある。

さすがに演奏シーンの作画は発展途上という感は否めないが、楽器自体の作画はしっかりと研究されたうえで描かれている。

劇中、スキップというキャラクターが登場するのだが、彼は6弦ベースを演奏している。さらにそのベースにはフィンガーランプまでつけられている。
なんだか、サンダーキャットみたいだと思っていたら、実際に彼が参加していた。

(因みに、「フィンガーランプ」というのは上の動画で彼が使用しているベースにも取り付けられている、ピックアップの間に装着されたパーツだ。指が深く入り込むのを防止できるため、早いフレーズが弾きやすくなったり、音質が整いやすくなる。フュージョン系の奏者が多く導入しているイメージだ。)

国内外のミュージシャンが多数参加

既に紹介したサンダーキャットをはじめ、国内外のミュージシャンを多数採用し、それぞれに曲を作ってもらうことで、各登場人物の個性が出やすくなっている。

なかなかここまで音楽に凝ったアニメはなかったかもしれない。

映画好きならわかるオマージュ

一話で、チューズデイが貨物車で目を覚まし、車両上部から遠くに見える街を眺めるシーンがあるが、そのシーンはまさに「魔女の宅急便」でキキが貨物車で目を覚ましたシーンと酷似している。
さらに、二話のラストシーン、ガスがキャロルの部屋を訪れるシーンは「シャイニング」の名シーンそのままだ。

細かいところでクスッと笑えるような仕掛けがされている。

「怪優」佐倉綾音

「怪優」と聞けば名前が真っ先に上がるのが、ジャック・ニコルソンだろう。声優界でいえば子安武人さんだろうか。しかし、本作で佐倉さんが勝るとも劣らない「怪演」を見せる。

佐倉さんと言えば「ラーメン大好き小泉さん」の大澤悠、「のんのんびより」の越谷夏海などのボーイッシュな役から、「やはり俺の青春ラブコメは間違っている。続」の一色いろはの様なあざとい役、「ご注文はうさぎですか?」のココアなど幅広い役で知られるが、近年はどうも某ラジオの影響か、もともとそういう人なのか、変人の役を演じることが多い。

本作でも8話から11話にかけての限られたシーンでシベール役で登場する。

登場してすぐは、即座に佐倉さんだと気づくシグネチャーボイスと、変人役で笑えるがそれもつかの間、非常に情報量の多い演技を見せ、いかにシベールがチューズデイに魅せられているかを表現している。
さらに、9話10話では何をしでかすのか分からない危なげな雰囲気を漂わせる。この時点でもはやシベールを佐倉さんが「演じて」いることを視聴者に意識させていない。
大声を張り上げるわけではなく、ぼそっとつぶやいたセリフに重みを乗せることのできる優れた役者であるのは間違いない。

10話の演技は圧巻の一言だった。

シベールは、限られたシーンでの登場となったにも関わらず、最も印象に残ったキャラクターであった。

総評

ここからは、「脚本」「演技」「作画」「背景」「音楽」の五つの項目で点数をつけていく。

なお、各項目で満点はまず出さないと思う。満点は本当の意味での究極の作品で、存在しえない理想の存在とする。
(「ローマの休日」の脚本は28点くらいだと思うので、それを目安に見てもらいたい。)

点数

  • 脚本 10/30(点)
  • 演技 23/30(点)
  • 音楽 11/15(点)
  • 作画 10/15(点)
  • 背景 8/10(点)

合計 62/100点

脚本

  • いくら何でも、キャロル&チューズデイの出世が早すぎる

ジョン・レノンとポール・マッカートニーでさえもっと時間がかかったであろう。二人が既にミュージシャンとして活動しているも、まだくすぶっている、とかであれば分からなくもないが、その様子は見受けられない。
ステージ慣れしていないはずなのに、いきなり10万人規模のステージで、ブーイングが飛び交う中演奏できるのもさすがに無理がある。

  • 各キャラクターに感情移入できない

各登場人物にドラマを感じない。チューズデイの家出すら子供のわがままの様にしか感じられない。とってつけたようなキャロルが難民という設定は今後、生かされてくるのだろうか?

「レ・ミゼラブル」「やはり俺の青春ラブコメは間違っている」は各登場人物が己の正義を貫いて行動し、それ故に誰も悪者ではないのに衝突してしまう。単純に善悪では割り切れない、各キャラクターの葛藤に視聴者は引き込まれていく。
本作でも、AIを使った音楽を作るタオとアンジェラ、自分たちで作詞作曲を行い、生楽器を演奏するキャロル&チューズデイの対比があるが、まったくその設定が生きていない。
アンジェラ親子、チューズデイ親子は衝突しているが、それが、単なるわがままなのか、信念に従った故の行動なのかはっきりしないのだ。
何を考えているのか分からない、ミステリアスな人物は作中に必要なこともあるが、全員何を考えているのか分からないのは問題だ。

演技

  • 安定した地盤に怪演が光る

大塚明夫、佐倉綾音、神谷浩史、この三人が支えているといっていい。

メインキャストの演技は実に平均的。下手という印象は特にないが、引き込まれることもない。

ベテランの大塚明夫さんと神谷浩史さんが地盤を作り、佐倉綾音さんがすべてをかっさらっていった。

佐倉さんの10話の演技は近年のアニメでなかなか見れないものだった。役者としての実力を見せつけられたように思う。佐倉さんがいなければ評価はもっと低かっただろう。

 

  • 声のギャップがひどい

キャスティング面だが、どうしても普段の声(日本の声優)と歌唱時の声(海外の歌手)のギャップが気になる。
エンジェルビーツの岩沢さん(cv沢城みゆき・marina)くらいの自然さが欲しかった。
歌手として活動している役者も出ているが、問答無用で吹き替えられていたのも少し遣る瀬無い。
もっとも、声優が歌手活動をすることにあまり好意的な立場ではないのだが…

作画

キャラクターデザイン、色彩が印象的だった。しっかりとオリジナリティーを出しているように思われる。
加えて、楽器の作画が素晴らしい。6弦ベースはしっかりと6弦で描き、ピックアップはトップ材に合わせたカバーで、フィンガーランプがついている。ここまでしっかり描いたのは評価されるべきである。

歌唱シーンや演奏している体の動きは「けいおん!」の頃よりも細かくなっているとはいえ、まだまだ発展途上だ。
とはいえ、「かぐや様は告らせたい」の3話エンディング、通称「ちかダンス」を見てもわかるように日々技術は進歩している。歌唱シーンのリアルさに関しては時間の問題だろう。

背景

キャラクターの色彩とマッチした背景。舞台が火星ということもあり、岩の多い荒野と近未来的な建築、場末のバー、様々なタイプの部屋などを丁寧に描いていた。
ステージ上のスクリーンの近未来的な演出を描き切ったのには驚いた。

音楽

ミキシングは目新しいし、使用されている楽曲も悪くない。しかし、どれもシンセ中心で生演奏の文化は完全に衰退したような印象を受けた。
生演奏をトレードマークとするキャロル&チューズデイですら、そこまで器楽演奏が生きていないため、タオとアンジェラの音楽との対比が極めて弱い。もはや、生演奏する設定が必要なのか疑問なレベルだ。

シンセを使った音楽は僕自身好きなのだが、曲作りにほとんどの人がAIを使う設定になっているので、少しくらい楽器の名手もしくはジャムセッションをメインとするバンドが出てきてもいいのではないだろうか?
AIを駆使して完璧に構成された音楽の美と、即興で名手がぶつかり合う演奏の儚い美は、興味深い対比として物語を彩ると思うのだが…

 

このような極めて人間的な演奏は衰退するとでもいうのか?

まとめ

どうにも脚本が足を引っ張っているような気がしてならなかった。音楽に関してももう少し脚本と共に設定を詰めれたのではないだろうか?
あくまでも第1クールを観終わっての意見なので全体を観れば脚本に対する感想は変わってくるのかもしれないが、あまり期待できそうにない。
しかしながら、日本のアニメと海外のミュージシャンたちをつなげ、新たなアニメを開拓した作品として評価されるべきである。今後この作品をきっかけとしてアニメの音楽の質の向上、レパートリー強化、新ジャンルの開拓が行われるかもしれない。

基本的に見て損をする作品ではない。Netflixオリジナルらしい先進的な作品だった。
佐倉綾音ファンは必見である。

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