「能力がないのなら、ロックでもやってろ。」
某映画のワンシーンで、ジャズドラムを学ぶ主人公の練習室に飾ってあったバディリッチの写真に添えられていた言葉。
圧倒的な技量とパワーを誇り、のちのジャズ界のドラマーだけでなくロック界のドラマーにまで多大なる影響を与えたドラマーが今回の記事の主役、バディ・リッチである。
Blues Caravan
先述の某映画にてクライマックスで取り上げられていた曲、「Caravan」。
元々はバディ・リッチの作品ではないが、主人公がバディ・リッチに憧れるドラマーと言う設定であったため、個人的にはどうにもバディ・リッチと深く結びついている。
バディ・リッチがスタジオ録音として残したバージョンが、1961年発表のこのアルバム、
「Blues Caravan 」に収録されている。
繊細でメロディアスなドラム
バディ・リッチのドラムといえば、ほとんどの人がこう思うだろう。
「パワフル!」
「速い!」
「強烈!」
無論、間違いではないのだが、このアルバムを冒頭から再生してみると印象は少し違ってくるのではないだろうか?
アルバムの一曲目「Blowin’ the blues away」
バディ・リッチのソロに続いてバンドが加わるアレンジになっているが、
その冒頭の1分30秒の彼のソロが凄まじい。
「ドラムは旋律楽器だ。」
元ガンズアンドローゼスのギタリスト、スラッシュのソロ二作目に参加していたドラマーが語っていた。
その言葉を聞いてしばらく意味がわからなかったが、このバディ・リッチのソロを聞けば誰しもが納得するだろう。
多種多様な音がシンバルによって奏でられ、それらの合間を縫って銃声のように鋭いスネアや重厚なタムが入る。
スネアの音も録音環境の影響か、空間の音が多く入っており、広いステージに一人、バディ・リッチがドラムを叩いているような情景が浮かぶ。
現代のように何本ものマイクをドラムの各楽器に近づけて設置し、混ぜ合わせると言った録音方法ではおそらくなかったはずである。
しかし、逆にそれがライブハウスで実際にバンドの生演奏を聞いているような生々しい音となってこのアルバムに収められている。
ベースのグルーヴ
またもや、長尺のドラムソロをバディ・リッチがとり、それに導かれるように「Caravan」のメインテーマをフルートが静かに奏でる。
その裏で刻まれるベースラインが独特の緊張感を生み出している。
のちにバディ・リッチがビッグバンドを組み活動していた際にメンバーに要求した演奏のレベルは非常に高かった。
ミスをすれば彼から罵詈雑言が飛んでくる。
ステージに立つミュージシャンたちの緊張は並大抵のものではなかったであろう。
それが、バディ・リッチ特有の緊張感のある演奏に繋がったと言えるのではなかろうか?
件のベースライン、1拍目は表拍で奏でられるが、それ以外の音が表拍で奏でられることはない。
ほとんどの音を拍と拍の間、しかも、均等に分割したタイミングではないところで奏でている。
コードの進行もそうだが、人は音楽に対して無意識のうちに、安定したリズムを求める。
1拍目で安定した地点を提示し、それ以外の音で不安定なリズムを提示する。
一歩間違えれば、もたった様に聞こえるか、走った様に聞こえてしまう。
しかしその緊張感がたまらなく心地よい。
均等に分割したタイミングとは異なったタイミングで音を奏でる。
現代の音楽におけるグルーヴとはそういったテクニックを指す。
まとめ
ジャンルを問わず、年代を問わず、様々なドラマーから賞賛を浴びるドラマー、バディ・リッチ。
まだ彼の録音を聴きあさったわけではないが、この一枚を聞くだけでも彼の魅力が伝わるはずである。
ステージの上でお互いに銃口を向け合いながら演奏するような、正に、命を削りながら奏でられるような緊張感のあるアンサンブルを堪能したい方にはおすすめのアルバムである。
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